法人化のベストタイミングはいつ?個人事業主・フリーランスが法人成りを考えるべき3つのタイミング
「今年こそ独立したい」「そろそろ法人化したほうがいいのかな」。そう考えていても、周りに起業した人が少なかったり、本で調べても一般的な話しか出てこなかったりして、決めきれない方は多いと思います。起業した知り合いに「いつ法人にしたの?」と聞いても、「なんとなく」という答えが返ってくることも少なくありません。
僕自身も、起業したときはほとんど勢いでした。はっきりタイミングを見計らって法人化したわけではありません。ただ、起業してから振り返ると、「このタイミングで法人化していれば、あの苦労はしなくて済んだかもしれない」と思うことがあります。本記事では、東京でモデル事務所と動画制作の会社を経営してきた僕の経験から、個人事業主やフリーランスが法人化を考えるべき3つのタイミングと、法人と個人事業を使い分ける「二刀流」という方法をお話しします。
※この記事は2025年1月に公開した動画をもとにしています。

1. 節税だけを理由に法人化するのはおすすめしない
法人化のタイミングと聞くと、まず「節税になるから法人のほうがいいのでは」と考える方が多いと思います。しかし、節税だけを目的に法人化するのは、少し安易だと僕は考えています。
1-1. 個人事業主でも経費はかなり計上できる
個人事業主でも、事業に必要なものはかなり経費として計上できます。「所得税は最大45%だから、結局は法人のほうが得らしい」という話を耳にすることがあるかもしれませんが、それだけで判断するのは早いです。
1-2. 役員報酬にも所得税と社会保険料がかかる
法人化すると、社長は会社から役員報酬を受け取ります。役員報酬を受け取れば、個人のときと同じように所得税がかかります。さらに、役員報酬の額を上げていけば、社会保険料も上がっていきます。気づけば「あれ、結局支払う額が増えているじゃないか」ということもあります。
税金の仕組みは本当によくできていて、必ずどこかで税金を払うように作られています。だからこそ、法人化は「節税」ではなく、事業をどう伸ばしたいかで決めたほうがいい、というのが僕の考えです。ここからは、その判断の軸になる3つのタイミングを紹介します。
2. タイミング1:チームを作って仕事をしていくとき
1つ目のタイミングは、チームを作って仕事をしていこうと決めたときです。
たとえば「俺一人で上場するぜ」という人はさすがにいませんよね。上場を目指すということは、事業を大きくしていくということです。そのためにはチームが欠かせません。そして、チームは個人事業より法人のほうが作りやすいんです。
2-1. 人を採用しやすくなる
法人化すると、求人を出したときに応募する人からの信頼が大きく変わります。求人サイトによっては、法人でないと掲載できないケースもあります。
個人事業主の求人だと「この職場、大丈夫かな」と不安に思われることがありますが、法人であればその心配はかなり小さくなります。人を採用してチームで仕事をしたいと思ったら、それは法人化のタイミングかもしれません。
2-2. 銀行から借りやすくなる
チームを作るには、手元の資金が必要です。採用には一定のコストがかかります。ここでも法人には利点があります。法人は個人事業主より信用が高く、銀行から融資を受けやすくなるからです。
お金は事業のガソリンです。資金調達がスムーズになれば、事業を広げるスピードも上がります。スピード感を持って事業を大きくしたいなら、個人より法人のほうが断然有利です。
2-3. 同じ方向を向いたチームは、強くて速い
法人化すると、組織としての役割分担や責任の範囲がはっきりし、生産性の高いチームを作りやすくなります。個人同士がプロジェクトごとに集まって仕事をするスタイルも素敵で、僕も大好きです。ただ、法人という一つの大きな意思を持ったチームは、やはり強くて速いんです。
それを実感した経験があります。以前、ある大手結婚相談所の顧問として、婚活ファッションコーディネートの内製化プロジェクトを進めたことがありました。婚活ファッションコーディネートは、僕が個人事業主として始めたサービスで、当時すでに8年ほど続けていて、ノウハウもかなりたまっていました。逆に言えば、そこまでの体制を作るのに何年もかかったということです。
それを社員数百名規模の上場企業がやると、スピードがまるで違いました。最初はトラブルやオペレーションの調整に多少時間がかかりましたが、半年ほどでサービスとしてほぼ完成し、東京だけでなく大阪や北海道など地方にも広がっていました。僕が8年かけて作ってきたものを、あっという間に完成形まで持っていったんです。同じ方向を向いたチームの強さ、速さ、効率の良さを見せつけられました。「法人格」という言葉がありますが、法人は複数の人が集まった一つの人格なんだと、改めて感じた出来事です。
2-4. 小さな会社でも、チームはモチベーションを支えてくれる
上場のような大きな目標がなくても、チームで仕事を進めたいなら法人化はおすすめです。僕たちのような小さな会社、いわゆるミニマム経営でも、チームであることは大きな力になります。
人間ですから、一人でずっと高いモチベーションを保ち続けるのは大変です。何度も心が折れそうになります。そんなとき、チームのメンバーがいると「もう一回やるか」と立ち上がる気持ちにさせてくれます。小さくてもチームを作ることで、モチベーションを高く保てると実感しています。
3. タイミング2:取引先の規模をワンランク上げたいとき
2つ目のタイミングは、取引先の規模をワンランク上げたいときです。上場企業や大手企業と取引したいなら、法人化を考えるべきだと思います。
3-1. 大企業は取引先の「信用」を重く見る
中小企業がクライアントの場合は、個人事業主でもそれほど問題になりません。しかし大企業がクライアントになると、正直、個人事業では契約が難航することがあります。上場企業はリスク管理がとても厳しく、取引先の信用度を重く見るからです。
法人同士の取引なら契約書の締結も比較的スムーズに進みますが、相手が個人の場合は、個人情報の保護や機密保持の観点から慎重になります。「プライバシーポリシーはどう定めていますか」「身分証のコピーを送ってください」と、契約までに確認が増えるんです。発注する側の立場に立てば、もっともな話です。
3-2. 個人で契約しようとして、話が立ち消えになった
僕自身、個人事業主として上場企業と取引しようとしたことがあります。発注はほぼ決まっていて、先方の上の方からも確約をもらっていました。ところが、「今回は個人事業で契約したい」と伝えたところ、話が途中で立ち消えになってしまいました。
あれは本当に悔しかったです。個人でも法人でも、できることは同じです。それなのに法人格がないというだけで取引ができないのは、完全な機会損失です。大手企業と取引するなら、個人事業のままでは契約のハードルが高いと考えておいたほうがいいでしょう。

3-3. モデルの世界でも同じことが起きている
僕たちが運営しているモデル事務所でも、同じようなことがあります。ほとんどのモデルはどこかの事務所に所属していますが、まれにフリーランスで活動しているモデルもいます。ただ、フリーランスだと、なかなか大きな案件に声がかかりません。
理由は、CMや広告には発売前の情報が含まれているからです。企業にとっては、競合に知られないように極秘で進めてきた製品です。10年ほど前、InstagramやFacebookが出てきたばかりのころは、撮影に来たモデルが「今日は〇〇社のCM撮影に来ました。今回の製品はこんな特徴があるのでお楽しみに」と、悪気なくSNSに投稿してしまうことが実際によくあり、問題になっていました。企業からすれば、記者会見で発表するつもりだった新製品が、全部バレてしまうわけです。
そのときモデルがフリーランスだと、そもそも機密情報についての教育を受けていなかったり、損害賠償となっても払えなかったり、連絡が取れなくなったりすることがあります。責任をどこの誰に求めればいいのかわからず、起用した企業の側も責任を問われて困ってしまいます。だからこそ、教育も含めて責任の所在をはっきりさせられる事務所、つまり会社に所属しているモデルのほうが、大型案件に出演する機会が圧倒的に多いんです。
取引先の立場に立てば、個人事業主より法人を相手にしたいという考えはよく理解できます。取引先の規模を上げたいと思ったときは、法人化に最適なタイミングです。
4. タイミング3:「このビジネスでいく」と覚悟を決めたとき
3つ目は少し精神論になりますが、「このビジネスでいくぞ」と覚悟を決めたときです。この覚悟は、実はとても大事だと考えています。

4-1. 簡単には逃げられないことが、力になる
法人を設立すると、簡単には逃げられません。だからこそ、自分にプレッシャーをかけることができます。経営者としての責任感が増して、「もうやるしかない」というモチベーションになります。いわゆる背水の陣です。
取引先からも、法人であれば「この人は本気でビジネスをやっているんだな」と感じてもらえます。こちらの覚悟は、相手にも伝わるんです。
4-2. 経営者になると、必死で勉強するようになる
以前、何かで「経営者に向いているかどうかは、経営させてみないとわからない」という言葉を読みましたが、まさにその通りだと感じています。
実感として、経営者になると、とにかく必死なので本当によく勉強するようになります。自分が作ったビジネスを続けるために、アンテナを張ってさまざまな知識を取り入れます。経理やお金の知識、生成AIやITなどのテクノロジー、契約書の知識、人を雇うようになれば労働法などの法律まで、足りない部分を必死で補っていきます。
僕自身、起業してからの期間が、社会人としていちばん勉強した期間だと思っています。毎年、受験生くらい勉強している感覚です。それでも苦にならないのは、やらされているのではなく、自分で決めたことだからです。このビジネスでいくと覚悟を決めたときは、法人化に最適なタイミングだと思います。
5. 裏技:法人と個人事業の「二刀流」という選択肢
最後に、ちょっとした裏技を紹介します。複数の事業を持っている場合は、「この事業は法人で、この事業は個人で」と使い分けるのも一つの方法です。
僕は法人と個人事業の2本立てで仕事をしています。法人の株式会社アクエリアスでは、モデル事務所や動画制作など、チームで行う事業をしています。一方、個人事業の中村康介としては、セミナー講師、記事の執筆、婚活ファッションコーディネート、企業の顧問など、個人で完結できる事業をしています。個人事業ではフットワークの軽さを生かし、自分にしかできない、属人性の高い仕事をしています。事業の領域をしっかり分けることで相乗効果を感じていて、収入面でのメリットも大きいです。

法人と個人事業の両方をやるメリットを、4つお伝えします。
5-1. リスクを分散できる
法人と個人で事業を分けることで、経営のリスクを分散できます。事業の領域が違うので、それぞれが抱えるリスクも違います。たとえばコロナ禍のときは、コロナに強い事業とそうでない事業がありました。実際に、法人がかなり打撃を受けていても、個人事業は回っている、ということがありました。
5-2. 事業ごとに適切な税務処理ができる
事業ごとに適切な税務処理ができるので、節税の効果も期待できます。顧問の税理士さんも、事業が分かれていることで最適な税務の戦略が立てやすい、と言ってくれています。
5-3. 個人の速さと、組織の力のいいとこ取りができる
個人事業では、素早く意思決定できます。ほぼ自分一人の判断で物事を進められるからです。会議の相手は基本的に自分だけ。自分で自分にイエスと言わせる状態です。
一方、法人では組織として動けます。関わる人が多い分、意思決定のスピードは個人より遅くなりますが、その分、動き出したときの一歩が大きいんです。このハイブリッドな運営スタイルが、仕事の幅を広げてくれます。
5-4. 安定収入と変動収入を組み合わせられる
自分が社長でも、法人では役員報酬を気軽に変えることはできません。役員報酬は原則として、事業年度が始まってから3か月以内に決めて、その後は毎月同じ額を支払います。会社員の給料のような感覚で、これが安定収入になります。なお、職務内容が大きく変わった場合や、経営状況が著しく悪化した場合など、年度の途中で改定が認められるケースもあります。詳しくは国税庁のタックスアンサー(No.5211 役員に対する給与)や、顧問の税理士さんに確認してください。
一方、個人事業の収入は、事業の内容にもよりますが、基本的には変動収入です。僕の場合、セミナーの講演料や婚活ファッションコーディネートの収入は、その月の販売数によって変わります。いい月もあればそうでない月もあり、振れ幅は大きいです。
二刀流のいいところは、この安定収入と変動収入を組み合わせられることです。法人からの役員報酬という安定収入で生活を回し、プラスアルファの個人事業の変動収入は、貯蓄や投資に回していく。この組み合わせで、収入面のメリットはかなり大きいと実感しています。
5-5. 注意点:事業の領域をはっきり分ける
二刀流の注意点は、法人と個人事業で、事業の領域をはっきり分けなければいけないことです。そうしないと、案件ごとに「これは法人で受ける」「これは個人で受ける」と分けることがそもそもできませんし、税務上も混同してしまいます。
二刀流でいこうと思ったら、まずは税理士さんに相談することをおすすめします。僕も実際に顧問の税理士さんに相談して、どの事業を個人で、どの事業を法人でやるかを分けていきました。
6. まとめ
法人化のベストタイミングは、節税ではなく、事業をどう伸ばしたいかで考えるのがおすすめです。本記事でお話しした3つのタイミングをまとめます。
- チームを作って仕事をしていくとき(採用しやすい・銀行から借りやすい・チームは強くて速い)
- 取引先の規模をワンランク上げたいとき(大企業は法人格と責任の所在を重く見る)
- 「このビジネスでいく」と覚悟を決めたとき(逃げられないことが力になる)
あわせて、複数の事業を持っているなら、法人と個人事業を使い分ける二刀流という選択肢もあります。その場合は、事業の領域をはっきり分け、税理士さんに相談しながら進めてください。
もちろん、状況は人それぞれなので一概には言えません。ビジネスのステージや目指す方向によって、ベストなタイミングは変わります。まだ迷っているという方も、ご自身のペースで進めるのがいちばんです。法人化はゴールではなく、新しいスタートラインです。しっかり準備をして、次のステージへ進んでいただければと思います。
法人化のメリットと注意点は、法人化のメリットと注意点|個人事業主・フリーランスが法人成りする前に知っておきたい3つずつでも詳しくお話ししています。あわせて読んでみてください。

