個人事業主やフリーランスとして売上が伸びてくると、「そろそろ法人化したほうがいいのかな」と考える時期が来ます。節税になると聞く一方で、手続きやお金の負担が増えるとも聞く。結局どちらがいいのか、判断に迷っている方は多いのではないでしょうか。

僕は株式会社アクエリアスを経営する一方で、個人事業主としても活動してきました。本記事では、法人と個人の両方を経験してきた立場から、実務の中で感じた「法人化のメリット3つ」と「法人化する前に知っておきたい注意点3つ」をお話しした内容をまとめます。法人化すれば必ず得をするわけではなく、どちらが合うかは売上や利益の規模、これからの働き方によって変わります。判断の材料にしていただければと思います。

※この記事は2025年3月に公開した動画をもとにしています。税率や制度は、国税庁などの公式情報で確認した内容に直しています。

明るい部屋でノートパソコンに向かい、頬に手を当てて考えごとをする女性

1. メリット1:手元にお金が残りやすい

法人化のメリットとして、まず思い浮かぶのが節税ではないでしょうか。手元に残るお金の差は、やはり大きいです。ただし、やり方や課税所得の金額によって結果は変わるので、ケースバイケースであることが前提です。

1-1. 所得税は最大45%、法人税は15%と23.2%

個人事業主にかかる所得税は累進課税です。所得が増えるほど税率が上がり、最も高い部分では45%になります。

一方、法人税の税率は、資本金1億円以下の中小法人の場合、所得のうち年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%です(国税庁「法人税の税率」より)。動画では「約23%程度」とお話ししましたが、中小法人は800万円以下の部分がさらに低い税率になっています。

一般的に、個人事業主が法人化(法人成り)を検討する目安は、課税所得が800万〜900万円を超えたときと言われています。このあたりを超えると個人の所得税の負担が重くなり、法人化して節税効果を受けた方がメリットが大きくなりやすいからです。

過去の赤字を繰り越せる仕組みの図解。会社は10年、個人事業は3年繰り越せ、儲かった時に過去の赤字をぶつけて納税額を抑えることができる

1-2. 赤字を10年間繰り越せる

法人のもう一つの良さは、赤字(欠損金)を10年間繰り越せることです。最初に赤字が出ても、その後に黒字になったとき、過去の赤字と相殺して法人税を抑えることができます。

僕自身、アクエリアスを創業した1年目は赤字でした。黒字になったときにこの過去の赤字分をぶつけることができたので、法人税をかなり抑えることができました。

最初の1〜2年は、設備投資や広告費などで赤字が出がちです。個人事業主でも青色申告であれば赤字(純損失)を繰り越せますが、その期間は3年です。この差は大きいと思います。

1-3. 経費にできる範囲が広がる

経費の活用範囲が広がるのも、法人化の大事なポイントです。

例えば、自宅を役員社宅にすれば、会社が借りた家賃の一部を経費にすることができます。これはとても便利な仕組みで、詳しくは別の記事「役員社宅とは?社長も会社も手残りが増える仕組みと始め方」で解説しています。

ほかにも、旅費規程(出張旅費規程)を作っておけば、経営者である自分自身にも出張手当を出すことができます。出張手当は、通常必要と認められる範囲であれば所得税がかかりません。

2. メリット2:取引先からの信用が上がる

法人化すると、取引先や金融機関からの信用が大きく上がります。

2-1. 契約がスムーズになる

信用が上がったと一番感じるのは、契約のときです。特に上場企業や大手企業との契約は、法人でないと難しい、途中で話が止まってしまうということもあります。

実際に僕も経験しました。ある上場企業と契約するとき、個人として進めていた段階では何度も確認が入り、契約書類を何回も作り直し、価格も厳しく交渉されて、かなり大変でした。ところが、法人として交渉してみたら手続きがとてもシンプルで、契約にまつわるストレスやコミュニケーションがまったく違ったんです。そのとき、法人は契約がスムーズなのだと強く実感しました。

窓際のオフィスで握手を交わすスーツ姿のビジネスパーソン2人

2-2. 金融機関から借りやすくなる

金融機関からの借り入れも、法人の方がしやすいという印象です。特に大きな金額を借りるときは、法人化している方が有利です。

手元にキャッシュがある安心感は、本当に大きいです。コロナショックのときも、手元資金があったおかげで次の戦略を冷静に考えることができました。無借金経営もいいのですが、僕は借り入れをして、キャッシュを手元に置いておいた方がいいと考えています。

3. メリット3:人材を採用しやすくなる

3つ目のメリットは、人材を採用しやすくなることです。法人化すると採用広告を出しやすくなり、応募する側からの信頼も上がります。

3-1. 個人事業だと紹介中心になりがち

いまは本当に人材を採用するのが難しい時代です。個人事業主やフリーランスの場合、採用はリファーラル(紹介)が中心になります。採用媒体によっては、法人でないとそもそも求人広告を出せないところもあります。

YouTuberやInstagramerのようにSNSで知名度のある方なら、個人そのものへの信頼があるので、個人事業主のままでも採用できてしまうことがあります。ただ、多くの方にとってはそうではありません。

僕の友人にコロナ禍で起業した人がいますが、個人事業の時と法人化した後では、採用のスピード、難易度、応募者の質がまったく違ったと話していました。紹介で採用する場合でも、働く側からすると、個人で働くのか法人で働くのかでモチベーションは変わってくると思います。

3-2. 小さな会社でも採用のメリットは大きい

会社を大きくしたい、多店舗展開や上場を目指したい、という拡大志向の方ばかりではないと思います。それでも、チームで仕事をしようと思ったら、法人化による採用のメリットは大きいです。

僕たちのように少ない人数でミニマムに経営していく会社であっても、取引先からの信用と人材採用の2つの面で、法人化のメリットは大きいと感じています。

4. 注意点1:出ていくお金も大きくなる

ここからは注意点です。法人化すると経営がスムーズになる一方で、新しく発生する費用が増えます。

設立時には、株式会社の場合で25万〜30万円ほどかかります(動画の時点の目安)。ただ、これは一時的なものなので、それほど問題ではありません。重たいのは、毎月・毎年かかり続ける費用です。

木のデスクの上に置かれた電卓とコーヒー、財務資料

4-1. 税理士の顧問料

法人の税務処理はとても複雑です。毎月の収支のチェックだけなら自分でできるかもしれませんが、決算処理はプロでない限り難しく、まず間違いなく税理士に依頼することになります。

顧問料の相場は、最低でも月3万円くらいから。決算時の報酬を加えると、年間で約50万円はかかります。個人事業主のときは確定申告のときに1回払うだけだったかもしれませんが、法人化すると継続的にかかるお金になります。

さらに顧問料は、売上が伸びるにつれて上がっていくのが一般的です。「年間売上3,000万円まではいくら、5,000万円まではいくら、1億円を超えたらいくら」といった具合です。税理士さんの作業量が増えるので仕方のない部分ですが、覚えておいてください。

4-2. 社労士の顧問料

社員やアルバイトを雇用するなら、会社のルールが必要になり、社会保険や労務管理の専門家である社会保険労務士(社労士)の力を借りることになります。

就業規則を作るときだけスポットで対応してくれる社労士さんもいるので、「顧問の社労士はいらない」という経営者は実は多いです。ただ、僕は顧問でいてもらった方がいいと考えています。

社労士さんは、就業規則の作成、残業をするときに経営者と社員の間で結ぶ36(サブロク)協定の作成や届出、給与計算などをしてくれます。助成金の情報をキャッチするのも早いです。僕はこのバックオフィスの領域があまり得意ではないので、とても助かっていて、その分経営に専念できています。顧問料は事務所によってさまざまですが、税理士の顧問料と同じくらいかかると思っておくといいでしょう。

4-3. 社会保険料

法人化すると、国民健康保険・国民年金から、健康保険・厚生年金(社会保険)に切り替える義務があります。「社長1人の会社なら入らなくていい」と思っている方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。報酬を受け取る社長1人の会社でも加入義務があります。

社員を雇用すれば、その社員も社会保険に加入します。保険料は会社と社員で半分ずつ負担(労使折半)するので、社員の数だけ会社が払う保険料も増えていきます。正直、経営をかなり圧迫するくらいの負担なので、法人化するときに必ず考えておくべきポイントです。

4-4. 消費税(個人でも法人でも)

消費税は、法人化したから納める、というものではありません。個人でも法人でも同じで、売上が一定額を超えると納税義務が出てきます。

原則として、基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下なら、消費税の納税義務は免除されます(免税事業者)。1,000万円を超えると、2年後から課税事業者として納税する必要があります。つまり、初年度に1,000万円を超えたら、3年目から納税義務が生まれるということです。

ただし、次のような場合は売上が1,000万円以下でも免除されません(国税庁「納税義務の免除」より)。

  • インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をしている場合
  • 特定期間(個人は前年1月〜6月、法人は原則として前事業年度の前半6か月)の課税売上高が1,000万円を超えた場合(給与等の支払額で判定できる場合もあります)
  • 設立時の資本金が1,000万円以上の法人の場合

消費税の納税はかなり重たいので、個人でも法人でも、早めに考えておきたいところです。

4-5. あらゆるものが「法人価格」

法人の契約は、基本的に何もかも個人より高くなると思っておいてください。

例えば、銀行のインターネットバンキングの利用料は、なぜか個人より法人の方が高くなります。事務所の家賃も、僕の場合は個人より法人の方が高くなりました。チャンネルでも紹介しているSaaS系の便利なツールも、個人利用より法人向けの価格の方が高く設定されていることが多いです。個人より安くなるのは、Amazonビジネスくらいではないでしょうか。

一つひとつは小さくても、ボディーブローのようにじわじわと、個人のときよりお金が出ていくと考えておいてください。

5. 注意点2:事務作業がとても増える

法人化すると、事務作業の量が大幅に増えます。その分、本業に割ける時間が減る可能性があります。

5-1. 紙の書類がやたら届く

起業して驚いたのは、毎月のように紙の書類がやたら届くことです。ペーパーレスの時代なのに、行政や会社からたくさん紙で届きます。もちろんメールもどんどん届きます。

5-2. 税金と人に関する手続き

法人にすると、法人税や消費税などの税務申告が大きく増えます。社員がいれば、年末調整や源泉徴収の手続きも必要です。住民税についても、社員が住んでいる市区町村から書類が紙で送られてきます。

法定調書の提出もあります。取引先や従業員に支払った金額を、税務署に報告する義務があるためです。これもかなりの事務負担になります。

5-3. 税理士に任せても「宿題」は来る

事務作業が多すぎるので、できる限り顧問税理士さんにお願いして経営に専念するようにしています。それでも、税理士さんから「この支出の領収書を送ってください」「今月の支払明細をクラウドにアップしておいてください」と質問や依頼が来ます。宿題が多いので、ぼーっとはしていられません。

6. 注意点3:法人は簡単に逃げられない

3つ目の注意点は、法人は簡単に逃げられない、ということです。法人化すると、事業に対する責任が重くなります。

6-1. 法律上の義務と罰則

法人化すると、法律上の義務が多く発生します。税務申告や社会保険料の支払いなどを怠ると、延滞金などのペナルティがあり、信用も失います。

さらに、経営がうまくいかなくなったときも、個人事業のように簡単に廃業することはできません。法人をたたむには、解散や清算の手続きが必要です。

6-2. 従業員とその家族の生活がかかる

法人として事業をしていると、アルバイトや社員を雇っていたり、業務委託でも関係者が増えていたりします。その方たちは、会社からの収入をあてにして生活しています。いわゆる「従業員やその家族の人生がかかっている」状態です。

6-3. 友人との共同起業はおすすめしない

少し話がそれますが、友人と一緒に起業する方がときどきいます。僕は、これは絶対にやめた方がいいと思っています。

僕の身近な経営者にも、友人と一緒に起業した方がいます。ある段階までは成功していて仲良くやっていたのですが、最終的には裁判になるほど揉めました。一人は従業員やその家族のことを考えていたのに、もう一人は自分のことしか考えていなかったんです。

経営トップの2人が揉めると、従業員や関係者にとても悪い影響が出ます。破竹の勢いだったそのビジネスも、いまは少し陰りを見せています。その経営者はビジネスだけでなく友人も失い、それでいて負債だけはしっかり残りました。

友人との起業がうまくいくのは、まだビジネスが軌道に乗っていないときです。うまくいっていないときは「頑張ろう」と仲良くやれるのに、うまくいき始めてからの方が揉めるんです。

6-4. 覚悟を持って法人化する

ちょっとうまくいかなかったからといって、簡単に撤退したり、諦めたり、逃げたりすることは基本的にできません。最初から及び腰なのであれば、法人化しない方がいいと思います。

覚悟を持たずに法人化すると、列車はもう走り出していて、後から「もう止められない」「いろいろな人を巻き込んでしまっている」と気づくことになります。その重圧で、経営者のメンタルがやられてしまうんです。覚悟を持って法人化することは、とても大事です。

7. まとめ

法人化のメリットと注意点を、3つずつお話ししました。

メリット3つ

  • 手元にお金が残りやすい(税率の差・赤字の10年繰越・経費にできる範囲)
  • 取引先や金融機関からの信用が上がり、契約や借り入れがスムーズになる
  • 人材を採用しやすくなる

注意点3つ

  • 出ていくお金も大きくなる(税理士・社労士の顧問料、社会保険料、消費税、法人価格)
  • 事務作業がとても増える
  • 法人は簡単に逃げられない

法人化には大きなメリットがある一方で、注意すべき点もあります。両方をしっかり理解し、準備を整えてから臨むことが成功の鍵です。実際に法人化するときは、ご自身の売上や利益をもとに、税理士などの専門家にも相談しながら判断してください。