小学5年生の璃子は、学芸会で主役の座を得ました!やったぜ!璃子。(ちなみに主役は、3人います。)
主役の決め方はオーディション形式。手を挙げたやりたい人が体育館で1人ずつセリフと歌を歌っていき、生徒の投票で決めるというもの。
オーディション前日から緊張している璃子に「とにかく元気に!恥ずかしがるのが一番サムい!」と言って送り出しました。

結果、璃子は緊張しながらも主役をゲット!
演目は、芥川龍之介の「杜子春(とししゅん)」。
震えるほど渋いじゃありませんか。
芥川作品の中では児童向けとはいえ、人間の内面にある美しさとエゴイズムを描く芥川作品と聞いて大人も興奮。期待が高まります。

本番を迎えるまでに、璃子は自分なりに歌と芝居の練習をしていました。
ソロパートの練習風景を見ていた花が「もっとお腹から声を出さないと聴こえないよ。喉で歌わないで、お腹から歌うんだよ。」と。
傍らで見ていた僕も「このシーンは杜子春がボロボロになっているんだよね?そしたら、そんなに大股で歩くかな?璃子ならどう?」と本気の演出。笑

リビングで練習を進めるうちに、小学生特有の「なんか笑っちゃう」モードに璃子が入り、ニヤついてやっていたら花が喝を入れました。
「他にもやりたかった子がいるんでしょう?それなのに璃子がニヤニヤやってたらどう思う?自分でやりたいって思って手を挙げたんでしょ?やるなら本気でやりなさい!」と。

本当にそうだよね。
そうだ!頑張れ!璃子!

その日以来、毎晩お風呂から渋めな歌詞の歌声が聴こえてきました。

そして、11月のある土曜日。今日は本番当日。
体育館は普段と違い真っ黒いカーテンが引かれ、壇上はスポットライトで照らされています。
前の学年の演目が終わり、いよいよ5年生の出番。
どの子も1年生の頃から見ているから、勝手に愛着湧いてます。笑

生演奏とともに第一幕が開演。
元は大金持ちだったのに、今は地位も名誉も財産もなくしてボロボロになった杜子春。
下手(しもて)から杜子春である璃子が出てきました。
力なくとぼとぼと歩き、目は虚ろ、全身から生気はなく、人々から嘲笑される姿はまさしく杜子春でした。
リビングで練習した通り、いや、それ以上の出来です。
まだ一言も喋っていないのに、その姿を見て、璃子の練習と気迫が伝わってきました。

ボロボロになった杜子春の目の前に仙人が現れ、再び財産を与えてくれます。
ここで璃子のソロパート。
「ああ ありがたい ありがたい 神も仏もない世の中で 捨てない人もあるものか」

璃子は、もう杜子春そのものでした。
懸命に歌う璃子の姿を見て、心から感動しました。

朝、「行ってきまーす。」といつも通り家を後にした璃子に、
普段、僕が帰ってくるといつも隠れんぼする璃子に、
休日には家族でごはんを食べることが大好きな璃子に、
きちんと自分の世界があって、その中で一生懸命生きているんだということを改めて確認しました。

璃子の親になることができて良かったといつも感謝しています。
親になる喜びをくれて、本当にありがとう。
子供たちはどの子もみんな最高の芝居と歌声で輝いていました。
今日は小さな学芸会で、大きな感動をもらった一日でした。